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【ありがとう、そして、さようなら】アークヒルズライブラリー その2 坂本龍一さんトークイベント「〜映像と音の関係〜」

【ありがとう、そして、さようなら】アークヒルズライブラリー その2 坂本龍一さんトークイベント「〜映像と音の関係〜」

1回目は、ライブラリーとの出会いと、その至福の仕事環境について主に書きました。

2回目は、ライブラリー会員枠で応募し、幸運にも参加できた坂本龍一さんのトークイベント「~映像と音の関係~」について記録しておきたいと思います。
内容がとても素晴らしく、今でもその時の感動が忘れられません。

イベントの正式名称は、第30回東京国際映画祭「SAMURAI(サムライ)賞授賞記念 坂本龍一スペシャルトークイベント~映像と音の関係~」。

2017年11月1日(水)15時から、六本木アカデミーヒルズ49階タワーホール(定員500名)で開催されました。聞き手は小沼純一さん(音楽・文芸批評家)です。

イベントの構成

タイトルにある“SAMURAI賞”とは、「比類なき感性で「サムライ」のごとく、常に時代を切り開く革新的な映画を世界へ発信し続けてきた映画人の功績を称える」賞だそうです。

「~映像と音の関係~」というタイトルどおり、映画音楽家としての坂本さんに焦点を当てた内容でした。


このイベントは、まず坂本さんがピックアップした映画の1シーンを数分上映したあと、そのシーンと音楽について坂本さんにお話を聞く、というパターンで進んでいきました。
最後に、挙手で会場から質問を募る、というライブ感あふれるコーナーもありました。

取り上げられた数本の作品の中には、観たことのないものもありましたが、先に当該シーンが上映されるため、非常にお話の内容が伝わりやすく、また目と耳とで映画と音楽の関係性に心を傾けることができ、たいへんよい構成だったと思います。

最初はただトークを楽しめばいいと思い参加したのに、イベントが始まるとすぐ、その内容の奥深さに、これは記録しておかねばという謎の使命感を感じ、メモ帳に殴り書きをしました。

録音していたわけではないので、一語一句そのままではありませんが、残っているメモを元に、印象に残ったお話を書いてみたいと思います。

『戦場のメリ―クリスマス』
「音楽もやらせてもらえるなら」と交渉

映画音楽の仕事を始めるきっかけとなった『戦場のメリークリスマス』では、俳優としてオファーしてこられた大島渚監督に、「音楽もやらせてもらえるなら出演します」と言った。

天才には仕事が天から降ってくると思っていたので、このエピソードにまず驚きました。

初めての映画音楽制作で手探りだったため、作ったテーマを映像にはめていく感じで「今見ると、流れがなく未熟に感じる」とも。

私の想像とは違い、坂本さんはとても率直に語られる方でした。

『ラスト・エンペラー』
「もう泣くしかない」

この作品のために45曲提出したのに、使われた楽曲は半分だった。しかもかの壮大な即位式のシーンで、3歳の溥儀がチョロチョロと姿を現すシーンでは、幕が上がるタイミングに合わせ、「よし、ここだ!」と思って作ったクライマックスのパートが全部バッサリ切られ、無音になっていた。

「もう泣くしかないですよ~」
笑いながらそうおっしゃったと記憶しています。
しかし、最近読んだ坂本さんの半生記「音楽は自由にする」(新潮文庫)に、あまりに過酷なスケジュールで作曲せねばならなかったため、過労で入院する羽目になったと書いてありました。

そんな思いまでして作った曲が、半分しか使われていない、しかも原型をとどめないほどズタズタに切られていた。
芸術家として、どんなにショックだったか、私のような凡人にでも容易に想像がつきます。

しかし、それでも、坂本さんはこの作品でアカデミー賞の栄誉に輝くのです。

『リトル・ブッダ』
「4回書き直し」

「書き直せと言われたら、書きます。書くんです。七転八倒しながら書くんです」

苦しげなポーズを取りながら、それでもお茶目におっしゃたのを覚えています。

YMOでテクノポップの一大ブームを巻き起こし、映画音楽を手掛ければアカデミー賞に選ばれる。
青春まっただ中の頃、いつも坂本さんの音楽が巷にあふれていた、そういう世代の私にとって、
「坂本さん=天才」としか思っていませんでした。
「七転八倒」という言葉がもっとも似合わない人の口から出たので、耳を疑いました。

単純に書き直しが大変だったという意味かもしれません。でも話を盛るタイプの方ではないし、本当に七転八倒されたのでしょう。クールに見えて、苦労も努力もされているということが、よく分かるエピソードでした。

「映画の音楽担当は、それがどんな大音楽家であろうと、作品制作の参加者として使われている立場に過ぎない。上司が言うことに納得できなくても、言われたとおりにするのが仕事ってもの。音楽というものを知らない映画監督も大勢いる」



私もフリーランスで仕事をしていて、自分が苦労して仕上げたものを、勝手に変えられてしまったり、諸般の都合でボツにされたりすることを何度も経験しています。
そのやりきれなさを、坂本さんも経験されていたのだと思うと、雲の上のような方なのに急に親近感を覚えてしまいました。
使われている立場なら割り切って考える。この言葉におおいに学ばせていただいたきました。

『レヴェナント: 蘇えりし者』
いい映画に音楽はいらない

この映画の主役は自然だと僕は思う。だから自然を生かし、音楽は途切れ途切れにする。自然の音を入れたいからだ。

音楽の文法を使い、映画音楽が自分の音楽になってしまっている時がある。『リトル・ブッダ』も今では詰め込みすぎに感じられる。

いい映画に音楽はいらない。

このトークショーで最後に紹介された作品です。映画音楽の経験を積むうち、自分なりのスタイルができあがった記念碑的作品なのかも、と感じました。

『レヴェナント』は、2016年2月のアカデミー賞で主演男優賞、監督賞など3部門を受賞し、坂本さんの音楽も、ゴールデン・グローブ賞とグラミー賞候補となりました。
その後朝日新聞に、この作品に取り組んでいた時は体調がすぐれず、思うように仕上げられなかった、という内容のコメントが掲載されたと記憶しています。

十分に仕事ぶりが評価されてはいても、ご自身の中では、病に阻まれ力を尽くせなかった悔しさがあったのでしょう。
トークイベントで知った、努力家で常に完璧を目指す坂本さんらしいコメントだと思いましたし、体調が万全であれば、また違った仕上がりになったのだろうと思うと私まで悔しくなりました。

2017年のイベント当時はご病気が寛解し、とてもお元気だっただけに、再発を知った時はとてもショックでした。

もう会うことはかないませんが…

それでも、このイベントに参加しての刺激や学び、そして感動は、坂本さんの素晴らしい音楽と共に、私の心の中の幸せな記憶として生き続けています。
坂本さんと、このイベントを企画してくださった映画祭関係者の方々、そして参加のきっかけをくださったアークヒルズライブラリーに心から感謝いたします。

2017年の東京国際映画祭 特別招待作品として上映された
“Ryuichi Sakamoto: CODA”

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